夫が不倫相手に離婚したと述べて結婚前提の交際を申し入れたが,不倫相手が嘘であることを知った後は不倫関係を解消したことを考慮して慰謝料を算定した事例
認められる事実
(1)原告とAは平成15年2月9日に婚姻届出をした夫婦である。
(2)被告とAは、いずれも日本郵政公社の職員であったが、平成19年8月ころから、仕事で接触することが多くなり、親密さを増し、同年10月末ころからは、結婚を前提に交際するようになった。なお、Aは、被告に交際を申し込む前提として、妻とは離婚したと述べていた。
(3)Aの行動に不審を感じた原告は、調査会社に依頼し、その結果、同年11月30日、調査担当者によって、Aと被告がホテルに宿泊していることが確認された。
(4)Aと被告の関係を知った原告は、同年12月2日、Aと同居していた家を出、同月5日には荷物を搬出して実家のある現住所に転居し、Aと別居することとなった。
慰謝料算定のポイント
被告は、Aと結婚を前提に交際を始めたもので、①Aとともに婚姻届に署名捺印をしたこと②Aの実家及び被告の実家に結婚の報告に行くため、飛行機を予約したこと、③被告は、両親、姉や友人にも結婚する予定であると告げていること、④その後、原告からの内容証明郵便を受領して未だ原告との婚姻関係が継続していることを知り、Aとの関係を解消したこと、以上の事実が認められる。
上記各事実は、被告が、Aが既に離婚しているか、少なくとも離婚の合意が成立したと考えていた可能性が十分にあり得るといえ、その意味で、被告に故意があったとまで断定することができるかどうかは疑問というべきである。
しかし、Aと原告との間で、離婚の条件についてどのような合意がされたのか全く説明がなかったというのも不自然であり(特に、Aと原告の間には未成年の子供がおり、被告も知っていたのであるから、どちらが親権者となり、養育費等の負担についての合意は、当然関心を抱くはずであるし、Aも、被告に説明をしなければならないと考えるのが当然である。)、被告は、本当に離婚の合意が成立していたのかどうか疑問を抱くのが当然であったというべきである。
したがって、被告は、少なくとも過失による不法行為責任を免れないものというべきである。
原告とAとの婚姻関係は、現在においては修復困難な状態になっているものと認められるところ、本件証拠による限り、その主要な原因は、Aと被告との不貞行為にあったといわざるを得ないし、これによって原告が被った精神的苦痛にも極めて大きなものがあったと認められる。
他方、不貞行為について被告に故意があったとまで認定することには疑問の余地があることや、被告は、Aと原告とが離婚の合意をしているわけではないことを知った後は、Aとの関係を解消したものと認められることは既に指摘したとおりであるし、不貞行為の第一次的責任は、配偶者であるAが負うべきものであることも考慮すべきである。
これらの事情を総合考慮すると、被告が原告に対して支払うべき慰謝料の額は80万円とするのが相当である。
(※東京地裁平成21年 1月27日判決文より一部引用)
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