モラハラ・DV

1 モラハラ

1 モラハラとは

離婚相談に際して問題となるモラルハラスメントとは,暴力に至らない夫婦間の深刻な道徳観の欠如をいい,暴言やコミュニケーションの拒絶,性的虐待,経済的虐待などの行為をいいます。

例えば,良好な夫婦関係構築に向けた話し合いに応じることなく,自らの考えのみを一方的に感情に任せて述べることを繰り返しているような場合には,モラルハラスメントが疑われます。また,子供がいる夫婦の場合には,配偶者が子供に対して虚言を交えて夫婦関係の悪化の責任が自らにはないような言動を繰り返しているような場合にも,モラルハラスメントが疑われます。

2 モラハラの判断方法

モラルハラスメントは,その程度によっては法律上の離婚原因となり,夫婦間の同意がなくとも,裁判所により離婚が認められることがあります。モラルハラスメントが離婚原因に至っているか否かの判断は,諸事情の総合考慮によることとされており,専門的な知識と経験が必要になります。また,裁判手続においては,モラルハラスメントを主張する側がそれを立証することが求められるため,裁判手続になる前に,証拠を収集し,立証に足りる証拠を揃えておくことが必要です。

2-1 モラハラに該当する行動

 配偶者をおとしめる言葉をはく

モラハラの代表的な行動が、配偶者をおとしめる言葉を吐くことです。例えば、単純な疑問を問いかけただけで、「そんなことも知らないのか?お前はどうしようもない馬鹿だ。」などと散々言われた挙句、答えを聞いても「自分で考えろ」と言われて教えてくれなかったりします。また、「専業主婦のくせに料理もまともに作れないのか。」などと女性の立場を見下すような暴言を吐き、支配下に置くのです。
暴言を聞かされ続けた配偶者は自尊心や自信を失い、自分が暴言の内容どおりの人間だと思い込んでしまいます。

 配偶者を責める言葉をはく

モラハラ加害者は、自分のことは棚上げして配偶者を責めます。例えば、ゴミ出しの日を間違えると「曜日も覚えられないのか。」と責め、頼まれた物を買い忘れると「お使いも満足にできないのか。」と責めて、場合によっては何時間、何日にもわたって責め続けることもあります。気分が悪くてつい身近な人に八つ当たりしてしまうことは誰でもありますが、モラハラの場合、責める言葉が日常的に繰り返されます。

 配偶者を否定し続ける

配偶者が何をしても否定することもモラハラに当てはまります。何かをしている時や、趣味の時間を過ごしていても、「そんなことやって何か役に立つのか」「程度が低い」と否定します。

 配偶者を束縛する

モラハラ加害者による束縛は愛情ではなく、「自分のために意志を捨てろ、ロボットになれ」と配偶者を完全に屈服させる欲望です。そのため、自分の所有物であるロボット(配偶者)が勝手に自分の元を離れないように何百通もメールを送り続けたり、電話に出ないと会社まで駆けつけるなど厳しく監視したり、配偶者のスケジュールを細かく決めて守らせる、などして束縛しようとします。

 配偶者の考えをあざける

自分が間違っていることが客観的に明らかでも、「お前が悪い。」と言い張るのもモラハラ加害者の特徴です。夫婦だけの場面では、正しいのは常に自分だと主張して絶対に間違いを認めず、謝ることはまずありません。

 感情の起伏が激しい

感情の起伏の激しさも、モラハラ加害者の特徴の一つです。昼夜や深夜は関係なく、扉を大きな音を立てて閉めるなど、無駄に恐怖心を煽ることを好むタイプもいて、配偶者は常に顔色を窺いながら生活しなければならなくなります。

 外面(そとづら)がよく、平然と嘘をつく

モラハラ加害者は、家庭内における配偶者への態度とは対照的に外面が良く、平然と嘘をつきます。例えば、親族やご近所の方が集まる場で「妻は家事が苦手」「整理整頓ができない」などと、何一つ本当のことはないのに、あえて人前で笑い者にする嘘をつきます。
その結果、モラハラの被害者が、周囲の人から厳しく評価され、弁解しても聞き入れてもらえず、つらい立場に追いやられます。

2-2 モラハラと協議離婚

協議離婚では、離婚の理由は問われず、夫婦が合意すれば離婚することができます。したがって、離婚したい理由がモラハラであっても、配偶者が合意し、離婚届が受理されれば離婚が成立します。
モラハラをする相手と離婚協議を進める際に重要なことは、どれだけ理不尽な対応を取られても、それに応戦しないことです。また、離婚を突きつけられて逆上したモラハラ加害者から暴力を振るわれるおそれもありますので、別居をすることも大切です。

2-3 モラハラと離婚調停

離婚協議がまとまらない場合、夫婦だけで協議できない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。その際に重要になるものは、配偶者のモラハラを証明するための客観的で説得力のある証拠です。モラハラは身体的な暴力をふるわれるわけではないので外傷が残らず、その多くは家庭内で発生するため第三者からはわかりにくいものです。また、加害者は家庭の外で会う人に対してはいい人を演じられる場合が多く厄介です。モラハラを理由に離婚を目指すためには、モラハラ被害の詳細な記録を継続的に残し「証拠」を集めましょう。
また、離婚調停では、調停委員を交えて離婚やそれに伴う条件を話し合いますが、モラハラ加害者がモラハラを否定したり、離婚に応じない意向を示したりして調停が難航するケースが少なくありません。そのため、別居している場合は、婚姻費用分担調停も同時に申し立てておくと、離婚調停が難航しても、別途、婚姻費用の手続きを進めることができます。

2-4 モラハラと裁判離婚

離婚裁判の場合は離婚の理由が問われますので、離婚裁判の際、法律が定める離婚の原因(民法770条1項)が夫婦間に存在することを裁判所に認めさせないと、離婚できません。

・配偶者に浮気・不倫などの不貞行為があった
・配偶者から悪意で遺棄された
・配偶者の生死が3年以上不明
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
・その他、婚姻を継続しがたい重大な事由がある
残念ながら、「モラル・ハラスメント」については明記されていないため、「その他、婚姻を継続しがたい重大な事由がある」つまり、「モラハラによる精神的な虐待が原因で夫婦関係の破綻に至ったため離婚を認めてください」と主張することになります。

2-5 モラハラと慰謝料

モラハラを理由として慰謝料請求する場合、第三者である裁判官に理解してもらうために、モラハラの客観的証拠を提出する必要があります。しかしながら、モラハラ被害は言葉の暴力によるものであるため、殴る・蹴るなどの身体的な暴力と異なり、目で見ることはできません。また、心の傷は、体の傷と異なり、怪我の跡が残りませんので、損害を証明したくても、写真を撮ることができません。そこで、言動の録音や撮影データ、詳細な経緯を記した日記などがあると良いでしょう。慰謝料の金額は、モラハラの内容と証拠の量や質で決まります。
なお、モラハラによる慰謝料の一般的な相場は50~300万円とされています。しかし、これはあくまで証拠が十分に揃っていた場合の相場であり、実際のところ、客観的にモラハラが認められるだけの証拠が十分に揃えられず、慰謝料が認められないケースが多い傾向にあります。

3 モラハラは一度弁護士にご相談ください。

夫婦の共同生活において,意見の食い違いなどによる口論は一定程度当然に起こるものであり,モラルハラスメントは,このようなものとの区別が難しいところがあります。そのため,モラルハラスメントに至っているにもかかわらず,自らではその判断がつかずに,長期間放置してしまい,最終的にはDVに至ってしまうこともあります。離婚を検討したくなる程に,夫婦生活において苦悩を抱えている場合には,一度弁護士に相談されてみることをお勧めします。

2 DV(ドメスティック・バイオレンス)

1 DVとは

ドメスティック・バイオレンス(DV)とは,一般的には配偶者間で行われる暴力のことをいいます。この点,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下,「DV防止法」といいます)においては,配偶者からの身体に対する暴力及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を対象として,その被害者を保護する規定が定められています。すなわち,法律は,このような行動をいわゆるドメスティック・バイオレンスと理解し,これを防止し,その被害者を保護しようとしています。

1-1 DVの種類

 ①身体的暴力

殴る、蹴る、首を絞める、タバコの火を押し付けるなど、身体に直接的に振るわれ、傷が残るような暴力行為です。被害者の身体に傷やアザが残るため、比較的発見されやすいDVですが、あえて服で隠れる部分を殴ったり、跡が残らない程度に留めたりするなど、第三者が気づきにくいケースもあります。

 ②精神的・心理的暴力

嫌がらせ、暴言、中傷、無視、脅迫など、主に言葉によって精神的な苦痛を負わせる暴力が精神的(心理的)暴力行為です。身体的暴力と違って傷などの証拠が残りにくく、音声や動画で証拠を残しておかないと調停や裁判などで立証しづらいという特徴があります

 ③経済的暴力

生活費を渡さない、勝手に妻(夫)の貯金を使う、妻(夫)名義で借金を作るなどの行為が経済的暴力です。夫婦のうち収入の高い方が加害者になりやすく、お金をコントロールすることで夫婦間や家庭内に上下関係を生み出し、相手よりも優位な立場になろうとする傾向があります。

 ④性的暴力

望まない性行為や妊娠、ポルノ映像など見たくないものを強要するなどの性的暴力行為です。
そのほかにも、子供が授からないことを妻のせいにする言動も性的暴力に該当します。性に関することゆえに、他人に相談しにくく、第三者が踏み込みにくいため、対処が遅れがちという特徴があります。

 ⑤社会的暴力

親族や友人と会わせない 、外出を禁止する、携帯電話のメールや着信履歴を執拗にチェックするなど、自分以外の外部の人間との交流を絶たせようとする行為が社会的隔離です。

 ⑥子どもを使った暴力

子どもに相手を攻撃させたり、子どもの前で相手を非難、中傷したりするなど、子どもを利用した間接的な嫌がらせもDVに該当します。被害者にとっても、また利用された子どもにとっても、心に深い傷を残し、後々までトラウマとなってしまうというリスクが考えられます。

1-2 DVの原因

各家庭におけるDVの原因は、家庭環境や夫婦関係などによって異なりますが、一般的には相手を自分の思い通りにコントロールしたいという願望が原因の1つと考えられます。DVは被害者の多くが女性で、男性が加害者になりやすいという特徴があり、誤った社会通念や経済的格差から、加害者は自分の思い通りに相手をコントロールしたい、支配下に置きたいという願望を満たすために暴力を振るったり、精神的に追い詰めたりします。また、家庭内という外から見えにくい環境であるため、加害行為がエスカレートしやすく、被害者は恐怖感や無力感で心身ともに衰弱してしまい、加害者に従わざるを得なくなってしまうのです。

2 保護命令とは

DV防止法においては,上記のような行為がある場合には,「保護命令」という裁判所の判断が出されることになっています。「保護命令」には,接近禁止命令退去命令の二つがあります。

まず,接近禁止命令とは,「命令の効力が生じた日から起算して6か月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他のその通常所在する場所の付近を徘徊してはならないこと」を命じるものです(DV防止法10条1項1号)。

次に,退去命令とは、申立時に被害者が相手方と「生活の本拠を共に」している場合に(DV防止法10条1項ただし書)、接近禁止と同様の要件で配偶者を生活の本拠から2か月間退去させ、自宅付近の「徘徊」を禁止する命令です。

このような保護命令が出された場合,法は,保護命令違反の行為に刑事罰を科すことにしているため,加害者に対し,その遵守を求めています。また,被害者は,加害者が命令に従うように警察官のパトロールを要請するなど警察官に保護を求めることができます。

2-1 保護命令の内容

 接近禁止命令

6か月間、被害者の身辺につきまとったり、被害者の住居(同居する住居は除く)や職場等の付近をうろつくことを禁止する命令です。

 退去命令

被害者と相手方とが同居している場合で、被害者が同居する住居から引越しをする準備等のために、相手方に対して、2か月間住居から退去することを命じ、その期間に住居の付近をうろつくことを禁止する命令です。

 子どもへの接近禁止命令

子どもが学校等から連れ去られるなど、子どもの引き取りのために被害者が相手方に会わざるを得なくなる状態を防ぐため、6か月間、被害者と同居している子どもの身辺につきまとったり、住居や学校等その通常所在する場所の付近をうろつくことを禁止する命令です。

この命令は、接近禁止命令が発令されることが条件となっており、有効期間も接近禁止命令の有効期間が満了する日までです。

 親族等への接近禁止命令

被害者の実家や密接な関係にある親族等、職場の上司等などの住居に押し掛けて暴れるなどの状態を防ぐために必要があると認められるときに、6か月間、その親族等の身辺につきまとったり、住居(その親族等が相手方と同居する住居は除く)や職場等の付近をうろつくことを禁止する命令です。

この命令は、接近禁止命令が発令されることが条件となっており、有効期間も接近禁止命令の有効期間が満了する日までです。

 電話等禁止命令

6か月間、相手方から被害者に対する

・面会の要求

・被害者の行動を監視していると思わせることを告げること

・無言電話をかけること

・緊急やむを得ない場合を除いて、連続して電話やFAX、メールをすること

・緊急やむを得ない場合を除いて、午後10時から午前6時までの間に電話やFAXをすること

・汚物や動物の死体等を送付すること

など一定の迷惑行為を禁止する命令です。

この命令は、接近禁止命令が発令されることが条件となっており、有効期間も接近禁止命令の有効期間が満了する日までです。

2-2 DVと協議離婚

協議離婚とは、夫婦の協議によって離婚する方法で、離婚届を市区町村役場に提出して受理された時点で離婚が成立します。時間と手間がかからない離婚方法ですが、DV加害者との話し合いは難しく、夫婦だけで話し合うと、肉体的または精神的な危害を受ける危険が高いため、必ず信頼できる第三者に同席してもらいましょう。

2-3 DVと調停離婚

調停離婚とは、夫婦で離婚の話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所に「夫婦関係調停申立」を行い、調停委員を交えて協議することで離婚を目指す方法です。調停委員、裁判官、家庭裁判所調査官など家庭裁判所の職員が離婚協議に加わり、裁判官が調停を成立させた時点で離婚が成立します。離婚調停では、夫婦が交互に調停室へ入って主張を述べるため、加害者と直接顔を合わせずに離婚の話し合いを進めることができます。

2-4 DVと裁判離婚

裁判離婚とは、家庭裁判所が夫婦の離婚を認めるか否かを判断する手続きです。調停が不成立になった場合、家庭裁判所に離婚裁判を提起することで、離婚裁判が始まります。

しかし、裁判で離婚する場合、法律に規定された離婚事由がないと離婚が認められません。

そのため、DVが原因の離婚であれば、法律に定められている離婚原因である「その他、婚姻を継続しがたい重大な事由」があると主張し、DV被害を受けたことを証明する資料を収集しておくことが大切になります。

2-5 DVの慰謝料請求

DVの慰謝料の相場は、一般的には50~300万円程度(証拠が揃っている場合)です。

しかしながら、DVを原因とする慰謝料の額は、後遺症が残る程度の酷いものは別ですが、一般的には、それほど高額にならないことが多いのが現実です。DVで慰謝料が認められるには、DVを示す客観的な資料が揃っている必要があります。ひどいDVを受けたとしても、それを証明する証拠がなければDVによる慰謝料は認められません。

DVの慰謝料額を決めるときに考慮される具体的な事情としては、DVを受けた回数や期間、怪我の程度、後遺症の有無、通院・入院を要する治療やうつ病などの精神的苦痛の程度、などが挙げられます。

3 DVの悩みを抱え込む前に

DVは,文字通り,家庭内の暴力であり,外部に露見することは多くありません。特に,DVの被害者の方は,最初は状況を自ら改善しようと努めることが多く,むしろ人に知られないようにすることが多いです。しかし,DVは,刑法上の傷害罪や暴行罪などに該当する犯罪です。家庭内において行われているとしても,このことは変わりませんので,一人でお悩みを抱え込む前に,一度弁護士や警察,行政の専門窓口に相談されることをお勧めします。

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