婚姻費用
1 婚姻費用について
離婚を検討されている方は,離婚が成立するまでの生活費のために婚姻費用を請求したいという方が多いです。また,離婚するつもりはなくとも,別居中であるなどの理由から婚姻費用を請求したいという方からも多くご相談をお受けしています。
この点,夫婦は,相互に協力して扶養する義務があります(民法752条)。そのため,婚姻中の夫婦は,相互に婚姻後の共同生活に伴う費用(これを法律上は「婚姻費用」といいます)について分担する義務があります。
離婚が問題となっていない時には特に意識することはないですが,別居中の場合などは婚姻費用の負担について争いが生じることがあります。これは,支払う側としては,いつかは離婚したいと考えている相手には生活費を支払いたくないと感じるところがあるからです。このような場合,特に家事労働に従事していた方としては生活費に窮してしまうことを防ぐため,交渉や調停などの手段により婚姻費用を請求する必要があります。
1-1 婚姻費用を請求できるケース
別居している場合
夫婦はお互いに協力し,扶養し合う義務を負っていますが,相手の不貞行為やDVなどが原因で一緒に暮らすことが困難になる場合があります。
しかし、たとえ別居中であっても,離婚届が受理されるまでは夫婦であることには変わりなく,夫婦の扶養義務はなくなりません。そのため、別居を理由に生活費の支払いを拒むことは原則としてできません。
たとえば自分が家を出て行った側であっても、相手のほうが収入が多い場合は、相手に対して婚姻費用の支払いを請求することができます。
別居をして子どもを育てている場合
婚姻費用には,子どもを養育するための費用も含まれます。
ですから,自分が子どもを連れて家を出た、または、相手が子どもを置いて出て行った場合でも,夫婦の事情にかかわらず,親が子どもを養う義務として婚姻費用を請求することができます。
もしも,相手と自分とで社会的地位や収入に差がない、あるいは、相手よりも自分のほうに多くの収入がある場合でも、子どもを養育するための婚姻費用の支払いを相手に請求できるのです。
同居していながら生活費が支払われない場合
夫婦には互いに協力し、扶養し合う義務があります(民法752条)したがって、夫婦のうち、収入の多い側は少ない側へ生活費(婚姻費用)を払う必要があります。
同居中でも生活費を受け取っておらず、生活ができない場合は、収入の少ない側は収入が多い側に対して婚姻費用を請求することができます。
たとえば,妻が専業主婦で,夫が会社員のような場合,夫が生活費を払わなければ妻が困窮してしまうことを知りながら,あえて生活費を渡さないのであれば,これは法律で定める離婚原因の1つである『悪意の遺棄』にも該当し得ると考えられます。
1-2 婚姻費用を請求できないケース
別居の原因が自分にある場合
別居をしても婚姻費用を請求できないケースがあります。それは,婚姻関係が破たん・別居に至った原因が自分にあるような場合です。
自分が婚姻関係を壊しておきながら婚姻費用を請求するのは信義則に反するため、「権利の濫用」として、その一部が認められなかったり,低く見積もられたり、または全部が認められない場合があるので注意が必要です。
ただし,子どもを引き取って育てている場合,養育するための婚姻費用は,有責配偶者であるか否かにかかわらず請求することができます。
2 婚姻費用の算定
婚姻費用の算定は,裁判所が公開する算定表に基づいて算定するのが通常です。
この算定表は,夫婦双方の収入,子供の人数及び年齢を基準にして,毎月々の養育費の額を算定するものであり,これらの事情が分かれば,誰でも算定できるように作られています。
そして,この算定表は,単に双方の収入のみを基にして養育費を算定しているわけではなく,ある程度の紛争の個別性を予見して,通常生じうる事情についてはすでに考慮した上で作られています。したがって,この算定表に基づかない主張をするためには,この算定表がどのような事情を考慮して作られているのかを理解していなければなりません。
例えば,子供に重度の障害があるなどの理由から,高額な治療費がかかるような場合,算定表ではこのような高額な治療費等は考慮されていないため,算定表通りに婚姻費用を算定したのでは,一方の親が治療費の多くを負担することになりかねません。そこで,このような事情がある場合には,算定表に拘らずに,算定表よりも高額の婚姻費用を算定することがあります。
2-1 婚姻費用の請求が可能な期間
相手が婚姻費用を支払う義務を負うのは、婚姻関係があることが前提です。
そのため、婚姻費用分担請求ができるのは、「別居を始めた時」から「離婚が成立するまで」,あるいは「再び同居を開始するまで」の間であり、離婚の成立後は、将来に向けた婚姻費用の支払い義務はなくなります。
婚姻費用は,別居期間中の費用について分担を求めるものなのです。
しかし,婚姻費用分担請求は、「請求した日から」しか認めない,というのが、現在の裁判所の一般的な考え方です。つまり、請求をしていなかった期間の婚姻費用について,「過去にもらえるはずだった」と主張して、後になってから請求するのは難しいことになります。
もちろん、例外的に請求できる場合もありますが,別居後に相手が生活費を支払ってくれないという場合には,速やかに婚姻費用分担請求の手続きをするべきです。
また,同居をしている場合でも,相手の生活にとって必要な生活費が渡されていないような場合には、同居中でも婚姻費用分担請求が認められることになります。
一方で,婚姻費用分担請求の終わりは、婚姻費用分担義務がなくなるまでとなります。
具体的には,「離婚するまで」、あるいは一度は別居をしたものの円満の方向で調整ができて「再び同居を開始するまで」とするのが一般的です。
3 離婚調停をする場合の婚姻費用の請求
婚姻費用の請求は,すぐに協議離婚が成立するような場合には特に問題となりませんが,調停離婚を検討している場合には必ず確認する必要があります。
一般的には,離婚調停を申し立てると同時に婚姻費用分担請求調停も提起することになります。この場合,離婚調停を進行する前に,婚姻費用分担請求調停が先行して進められることになるのが一般的です。したがって,婚姻費用について争いがある場合には,離婚調停についても長期化してしまうことがあります。
このような場合の解決方法は,早く離婚することを選ぶのか,適正な婚姻費用の算定を選ぶのかによって異なりますが,弁護士にご相談の上,納得のいく解決方法を選択することが必要です。
3-1 婚姻費用分担請求を行うメリット
相手に婚姻費用の支払いを請求する最大のメリットは、別居生活中の生活費や,離婚に関する協議や調停・裁判の間の自分と子どもの生活費を確保できることです。
また、相手が離婚を希望していない場合は、先に婚姻費用分担請求を行っておくことが真剣に離婚を考えさせるきっかけとなり,圧力になる可能性も期待できます。
離婚成立までの別居期間が長引けば長引くほど、婚姻費用の負担も大きくなり,相手の生活費だけは負担し続けなければならない(離婚をすれば子どもの養育費だけでいい)という点に気づき、早く離婚しようと思わせることができるのです。
4 是非弁護士にご相談ください。
婚姻費用は,離婚を前提としない場合,つまり,別居中に請求することもあります。婚姻費用の算定は,月額が数千円異なるだけでも長期間に及べば,かなり高額の差が生まれることになります。簡単に妥協してしまうのではなく,弁護士にご相談の上,納得のいく解決を目指すことをお勧めします。
また,離婚調停をされる方の中には,婚姻費用をあまり重要視しない方もいらっしゃいますが,離婚原因が争点となっているような場合や財産分与について大きな争点があるような場合には,離婚調停が長期化することもあります。すぐに離婚できると考えて婚姻費用を妥協するのではなく,弁護士にご相談の上,納得のいく額で合意されることをお勧めします。
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