夫と不倫相手との交際の程度や期間,夫婦関係が破綻せず維持されていること等の事情により,10万円の限度で慰謝料請求が認められた事例
事例の紹介
この事例は,肉体関係があったという意味での不倫の証拠はなかったものの,相当に親密な関係にあったことについては十分な証拠がある事例であり,そのことを踏まえて金10万円の慰謝料を認めた事例です。不倫の慰謝料を求める時には,肉体関係があることの厳密な立証が必要であり,その立証が果たされなかった場合には慰謝料額が非常に低くなることを示す良い参考例といえます。不倫の立証に足りる十分な証拠があるかについては,しっかりと弁護士に確認してもらうことが必要であるといえるでしょう。
認められる事実
(1) 原告とAは昭和31年に婚姻し3人の子供をもうけた。
Aは原告との婚姻当初から印刷関係の事業を営み,20年前に次男にその事業を引き継いでから〇〇委員となった。
被告は,平成5年に夫と死別し,10年前から〇〇委員となった。
(2) 被告は,平成13年6月21日頃ころ,Aに委員としての仕事関係の相談をした。
被告とAは,同年10月6日頃,池袋のカラオケに行った。
Aは,同年10月7日,被告に3万円程度のネックレスを買い与えた。
被告とAは,同年10月18日,原告には内緒で,大阪に日帰りで遊びに行った。
被告とAは,Aの誕生日の前日である同年11月22日,池袋のデパートの中にある料理屋で昼の食事をした。
そのころ,被告はAに,合わせて2万円程度のプレゼントをした。
原告に,被告とAとの交際が発覚した後,被告とAは,いずれも〇〇委員を辞任した。
(3) 原告は,同年11月25日,Aのワイシャツのポケットに被告の手紙を発見して,被告とAとが不倫関係にあると考えるようになった。
その後,原告と被告は一時家庭内別居の状態にあったが,現在では,外形上は通常の夫婦生活に戻っている。
慰謝料算定のポイント
被告とAとの間に肉体関係があったことを認めるに足りる証拠はないが,被告とAとの交際の程度は,数万円もするプレゼントを交換するとか,2人だけで大阪まで旅行するなど,思慮分別の十分であるべき年齢及び社会的地位にある男女の交際としては,明らかに社会的妥当性の範囲を逸脱するものであると言わざるを得ず,恋愛感情の吐露と見られる手紙を読んだ原告が,被告とAとの不倫を疑ったことは無理からぬところである。
被告のこれらの行為が,原告とAとの夫婦生活の平穏を害し原告に精神的苦痛を与えたことは明白であるから,被告は原告に対し不法行為責任を免れるものではない。
しかしながら,本来,夫婦は互いに独立した人格であって,平穏な夫婦生活は夫婦相互の自発的な意思と協力によって維持されるべきものであるから,不倫の問題も,基本的には原告とAとの夫婦間の問題として処理すべきものと考えられる。 したがって,被告とAとの交際が上記の程度であって,その期間も約半年に過ぎないこと,被告もAも〇〇委員を辞任するという一種の社会的制裁を受けていること,原告とAとの婚姻関係は最終的には破綻することなく維持されていること等の事情を勘案すると,本件において,被告の行為によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,10万円が相当と考えられる。
(※東京地裁平成15年 3月25日判決文より一部引用)
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